「カピタン・アラトリステ」シリーズと映画「アラトリステ」の背景知識と翻訳裏話


by KATO Kosei Ph.D
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何かおかしいと思ったぜ

 現在は4巻5章をやっていますが、今日はまた妖しい箇所で思わず珍訳を見逃すところでした。

 今日のお題は「ヘラクレスの柱」。

 何だと思いますか? ちょっとググってみてくださいよ。そう、ジブラルタル海峡の雅名です。これはもともとギリシア神話に由来します。英雄ヘラクレスがエウリュステス王に課された12の難題の10番目のエピソードがネタ元です。

 ヘラクレスはイベリア半島にいるゲリュオンという三つ首の怪獣が飼っている牛を連れてくるよう言いつけられます。ヘラクレスはアフリカ大陸の北岸沿いにイベリア半島に向かいます。

 さて、ヘラクレスが世界の西の果てに来ると、そこにはかつてゼウスと戦って敗れ、天の西の縁を肩で支え続ける刑罰を受けた巨人アトラスのなれの果てがありました。巨人だけにその亡骸アトラス山脈も巨大でして、邪魔くさくて通れません。そこでヘラクレスは持っていたメイスでこの山を真っ二つに粉砕してしまいます。この時、ヘラクレスのメイスが叩きつけられた場所がジブラルタル海峡になり、アトラスの亡骸はジブラルタルの岩山とセウタのアチョ山になったとされます。後世の人々はこの二つの山を「ヘラクレスの柱」と呼んだのです。

 まあ、ヘラクレスの11番目の難事「ヘスペリデスの黄金の林檎を持ってくる」というエピソードではアトラスは何故か生きている(彼がアトラス山脈になったのはもっと後、ペルセウスがメデューサの生首を見せた時)という矛盾もあるんですが、それはまあ良いとしましょう。

 問題はですよ。イニゴくんが彼女に呼び出されてフラフラ出向くセビージャの町はずれに「ヘラクレスの柱」が突っ立っているなんて描写だ。そんなもんどう考えてもサイズおかしいやろ。え。ロック・オブ・ジブラルタルがセビージャの街中に置いてあるわけがない。

 おかしい。

 何だこれは。
 
 散々調べましたよ、ええ。正解はこういうことでした。セビージャの北側、マカレナ地区に「ヘラクレスの並木道(la Alameda de Hércules)」という有名な並木道があるんです。そうねえ、鎌倉の段葛みたいなもんですかね。16世紀中頃にバラハス伯爵なる人物が作ったそうで、その入り口には近所の古代ローマ遺跡から引っこ抜いて来た大理石の柱が2本立てられているんだそうです。そんでその柱頭にはそれぞれフリオ・セサルとヘラクレスの像が置いてある。だからその並木道を「ヘラクレスの並木道」と呼ぶんだと。

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 となると訳語「ヘラクレスの柱」はノーグッドです。ジブラルタル海峡を連想する人もいるでしょうからね。「ヘラクレスの像が置かれた石柱」に修正して、ここまで1時間。オポチュニティコスト激高っすな。

 あっ。もう一つトラップありました。「フリオ・セサル」ってパラグアイ代表のミッドフィールダーのことじゃないですからね。例によって有名人のスペイン語読み。塩野七生が萌えまくるあの人のことです。3巻ではスペイン語読みのままで出てきますから要注意。
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by waka_moana | 2006-11-28 16:46 | 文化