「カピタン・アラトリステ」シリーズと映画「アラトリステ」の背景知識と翻訳裏話


by KATO Kosei Ph.D
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カテゴリ:文化( 44 )

奈倉洋子『グリムにおける魔女とユダヤ人』読了

日本語では魔女と訳される単語も原著では様々な背景を持つ幾つかの単語に分かれていること、中世末期から近世にかけての魔女狩りの影響や、19世紀初頭のドイツの倫理観の影響、さらに商業出版としての童話集という事情や、挿し絵の表現を通して、善悪両義的な呪い師や妖精、古代の女神などが、年老いた邪悪な女魔法使いというイメージに収斂していったという分析など、なかなか面白い。
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by waka_moana | 2016-07-15 23:31 | 文化
 一昨日からスペイン一周自転車ロードレース「ブエルタ・ア・エスパーニャ」が始まっています。

 ところがですね。中継の映像が何かヘンなんです。ブエルタと言えば赤茶けた荒野を延々と伸びる舗装路。灼熱の太陽。オリーブとブドウの畑。石造りの古城の廃墟。丘の上に立つ黒牛の巨大看板。のはずなのに、何故か今年のブエルタは見渡す限りの真っ平らな緑の平原。風車。運河。

 そう。何と今年のブエルタはオランダで最初の3ステージを、ベルギーで4ステージ目をやってからイベリア半島に入るというコース設定なんです。ブエルタ・ア・エスパーニャが国外に出たのはこれが初めてだとか(アンドラには入っていると思いますが)。その歴史的なブエルタ・ア・エスパーニャの舞台が「アラトリステ」で言うところのフランドルですからね。隊長が聞いたらどんな顔をするかな? まあそんなこともあるのかもなって顔でノーコメントなんでしょうけど。
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by waka_moana | 2009-08-31 22:31 | 文化

THE ハプスブルク

 9月から12月まで国立新美術館で「THE ハプスブルク」という展覧会が開かれるそうです。

 とりあえず何故、英語の定冠詞を付けるのかという根本的な疑問がありますが。日本とオーストリア・ハンガリーの国交樹立140周年記念というコンセプトですけれども、内容を見るとベラスケスやエル・グレコ、ムリーリョなどスペイン絵画もそれなりに持ってくるそうです。フェリペ2世の甲冑とかも。

 京都にも巡回するようなので、京阪神方面のアラトリステ読者の方々も是非、ご覧になってください。私はどうしようかな。講義の帰りに見てくるにはボリュームがあるんだよな。平日の朝から隊長を体調を整えて行きたいですね。

 


 
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by waka_moana | 2009-06-23 20:36 | 文化

ゴクゴク飲みますが

 5巻の中盤以降、隊長はひたすらローンバトルを続けます。ランボーみたいなものです(本当)。その孤独な戦いの間、隊長が戦闘や行軍の合間に喉を潤すのは、ご存じワイン。

 私も自転車で走っている時はこまめにスポーツドリンクを飲んで水分補給しますけれども、隊長はスポーツドリンクの代わりにワインなんですね。

 しかしですよ。仮にも戦闘行動中なんですから、ワインなんかガブ飲みして大丈夫なんでしょうか? いくら酒豪でも、喉を鳴らしてそんなもの飲んでいたらヤバいんちゃうか? 私の場合、1時間の有酸素運動で500mlから750mlの水分補給を行います。今回のマドリードはひたすら雨の中ですけれども、それでも1時間で350mlくらいは欲しい、というかそれくらいは補給しないと体力が持ちません。

 ということは、2時間の戦闘行動でボトル1本。それはいくらなんでも無茶だ。「あぶさん」じゃあるまいし。大体、今私たちが有り難がっているようなフルボディの重厚なワインなんか、渋すぎてゴクゴク飲めないでしょう。もしかすると、現在のワインの味の基準というのはワインが運動時の水分補給に用いられなくなってから出来たものなんじゃないですかね? ボルドーで格付けが出来たのが1855年ですけれども、19世紀半ばのヨーロッパの陸軍の行動食にワインは含まれていたんでしょうか?

 どうもおかしいなと思って少し調べてみたんですが、やはりというか、ワインを水分補給に使っていた時代は、基本的にワインというのは樽に入っているものだったそうです。瓶に入れてコルクで栓をしてというのは、ワインが作れない北ヨーロッパに輸出するようになった近世以降。ちょうど隊長の時代にそういう貿易も始まっていたわけです。だから瓶に入れて熟成させて飲むというワインの飲み方も近世以降だし、そもそも南ヨーロッパでは瓶になど入れなかった。樽から壺に移して供したんですね。

 しかも、5倍くらい、あるいはそれ以上に水で薄めて飲むのが当たり前だったのだそうです。5倍ならアルコール度数も2度とか3度くらいになっちゃいますから、ビールより度数が低いんですね。6倍なら2度前後。だったらまあ、運動中の水分補給にも使えなくもないか。

 余談ではありますが、私が運動中に飲むスポーツドリンク、市販の状態の、やはり5倍くらいに薄めてあります。銘柄にもよりますけど、ポカリスエットとかアクエリアスなんかは市販の状態だと糖度が高すぎて、水分吸収の速度が遅くなっちゃうんですよ。
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by waka_moana | 2007-09-28 01:04 | 文化

文壇小説だ

 映画の話が国内では先行していたので、5巻はマリア・デ・カストロと隊長の不倫話で、言ってみれば芸能界もの・・・・だと思っていたこの私です。

 ですが、何か違う気配が漂ってきております。3巻のアタマの方でイニゴ君と一緒に火事場に突っ込んでいった若い兵隊さん。憶えておられますか? 彼が5巻ではスペイン文壇の新星として登場してきます。もちろんケベ爺も文壇バトルは得意ですやね。セルバンテスは隊長がイタリアに居た頃に亡くなっているのですが、ロペ・デ・ベガはまだまだ元気なご様子で、ケベ爺とワインを酌み交わしております。

 ロペ先生は露出度高いですね。いや、決してマラガで海水浴に興じているということではなく、ほぼ1章がロペ先生の話に充てられているという意味。今回の驚きは、ロペ・デ・ベガが「無敵艦隊」に乗り込んでイングランド遠征に参加していたってことですね。セルバンテスも「無敵艦隊」の頃に兵役に就いていたわけで、実はこの二人は同時代人だった。全く同時期に画壇にはエル・グレコが居て、文壇にカルデロン・デ・ラ・バルカが出てきた頃には画壇にベラスケスが出現しちゃうんですから、確かにこれはスペイン文化の黄金時代という他無いですね。

 レベルテの旦那が時代小説を書こうとした時に、この時代を選んだ理由が良く解ります。しかし隊長もベラスケスにケベードにロペ・デ・ベガにカルデロン・デ・ラ・バルカって、文化人に友達多すぎ。
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by waka_moana | 2007-05-08 22:32 | 文化

アラトリステの飾り帯

 画像をちょっと集めてみました。これはティツィアーノが描いたカルロス1世(カール5世)。

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 これは映画のアラトリステ。たしかに飾り帯らしきものは無い。つーか兜被れよな。

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 これは本国版3巻のカラー挿絵。おそらくラストシーン、テルヘイデンの戦いでしょうね。カルタヘナ歩兵連隊の軍旗も見える。胸のところになにやら赤い×がありますが、あれは飾り帯って言いませんやね。

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by waka_moana | 2007-04-30 23:20 | 文化
 すごい新聞記事を見つけてしまいました。

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4月9日0時7分配信 毎日新聞

 政府の教育再生会議は8日、公立の小中高校への競争原理導入を求める提言の素案をまとめた。行きたい学校を選べる学校選択制を拡大した上で学校予算を児童・生徒数を重視した配分に変更することで、人気校が優遇されるよう促す。同時に学校の統廃合の推進を打ち出し、人員や財源の効率化を求める。
 9日の同会議第1分科会(学校教育)に提示し、5月の第2次報告に盛り込むことを目指す。
 学校選択制は、市町村教育委員会による指定ではなく、保護者や子どもが通学先を決めるため、人気の高い学校に児童・生徒が集まる。学校予算は従来、職員数や設備に応じて配分されているが、再生会議は、児童・生徒数が多く集まる「人気校」に予算が手厚く流れる仕組み作りを促す。
 教員給与も現在は年功序列が基本だが、勤務評定に応じて現行水準の80~120%の幅に弾力化し、優秀な教員を処遇。教員の一般公務員に対する優遇を定めた人材確保法を改正し、教育予算に占める人件費引き下げを図る。【竹島一登】

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 いわゆる新自由主義、ありとあらゆる規制を撤廃して世の中を「万人の万人に対する闘争」状態に戻すのが一番正しいという考え方の公教育バージョンですねえ。・・・・・正気かよ。

 一見すると、「競争しあうことで高め合うんだから何も問題無いじゃないか」と思える文面です。ですが、これ、色々と裏があるんですよねえ。一言で言えば「強者の総取り」にお墨付きを与えるルール。

 ざっと見、このルールは以下のような問題を孕んでいると思います。

・人気校に予算を手厚く配分するということは、立地や歴史から既に人気校になっている学校はヨーイドンの状態で予め先を走っていることになります。
・既存の人気校の周辺は、人気校があるという理由で不動産価格が高いので、低所得者層には入学への障壁が大きくなります。だって遠くに住んで通学するにも交通費かかるからね。
・既存人気校を別にしても、予算配分で差を付けるということは最初の出足で全ての勝負が決まってしまいます。人気を集めれば集めるほどお金が入ってくるんだから、一旦出遅れたら挽回は不可能でしょう。
・そして新しい人気校の周辺も地価が上昇し、低所得者層ははじき出されていきます。
・高校では学力による選別が出来ますが、入学のための学力は塾や家庭教師である程度上積み出来ますから、ここでも高所得者層有利です。
・全体として低所得者層の子弟は人気校には入りづらくなり、予算を少なく配分される不人気校に行かざるを得ないようになります。
・高所得者層の子弟は予算を潤沢に配分されるエリート校、低所得者層の子弟は最低限の予算しか回ってこない底辺校という二極化が激しくなりそうです。そして高所得を期待出来る職業は高学歴者の方が就職しやすいので、この格差はどこまで行っても埋まりません。
・教職員の待遇面では、「仕事の出来る人材には沢山給料を出す政策」と「仕事の出来る人材が欲しいので給料を多めに設定している政策の破棄」を同時にやろうとしています。こういうのを支離滅裂というのではないでしょうか。

 いやはや。イニ坊やケベ爺が聞いたら笑い出すようなことを思いつく人がいるものです。

Una qué tierra hermosa esto sería...
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by waka_moana | 2007-04-10 22:38 | 文化
 今日はスカパー!でサイクルロードレース「ツール・デ・フランドル」を観戦しました。フランドル。3巻の舞台となったあのフランドルです。フランドルのボコボコの石畳をあの細いロードレーサーのタイヤで爆走するという、見ているだけでも手首が痛くなってくるレース。しかも石畳の大半がヒルクライム区間に・・・・・あれ?

 何故。何故、フランドルでヒルクライムなのか? イニゴ坊も書いていたではないですか。ひたすら平坦な土地だと。

 急いで私は大会の公式ウェブサイトを見ました。コース図を確認する為です。しかしあれですな。単なる地図ってのは起伏がわからないのですな。

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 頼りになるのはgoogle earthです(上記リンク左端)。kmzファイルをダウンロードしてグーグルアースで表示してみると、おお、なるほど。フランドルと言っても西の方は若干起伏があるんですねえ。これは知らなかった。そりゃそうだよな。フランドルの全部が干拓地だったら、フラマン語なんて発生出来ないもんな。

 面白いからグーグルアースでブレダも出してみました。現在のブレダの空撮写真が見られて楽しいっすね。

 ついでにあの謎の町、アウドゥケルクも探してみましたよ。といってもカタカナで「アウドゥケルク」なんて入れても出てこない。スペルはOudkerkです。3巻冒頭の原文はこんな感じ。

「La ciudad, que no era sino un pueblo grande, se llamaba Oudkerk y estaba en la confluencia del canal Ooster, el río Merck y el delta del Mosa, que los flamencos llaman Maas. Su importancia era más militar que de otro orden, pues controlaba el acceso al canal por donde los rebeldes herejes enviaban socorros a sus compatriotas asediados en Breda, que distaba tres leguas.」

 しかしこれでは出ませんでしたね。でも似たような名前の町ならあった。Ouderkerk。

 ブレダの北、およそ37キロ強の位置。というよりはロッテルダムとゴーダの間という方が探しやすいですね。集落の名前はOuderkerk aan den IJssel。残念ながら現在のいかにもニュータウン的な集落は1985年以降のものだそうです。町(というか村)の歴史は13世紀に遡りますが、「アラトリステ」に出てくるアウドゥケルクとは違って帝国自由都市ではなく、やはり単なる集落だったようですね。

 ちなみにブレダの北、およそ16キロの所にはマース川の三角州がありますが、こちらは都市ではない、ただの三角州なので、やはりアウドゥケルクではないです。
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by waka_moana | 2007-04-09 01:14 | 文化

お薦めの副読本

 2巻の副読本として打って付けの一冊を見つけました。

 関哲行『スペインのユダヤ人』(山川出版社、2001年)

 
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 タイトルからしてもうそのまんまなのですが、きちんとした学術資料に基づき、平易明解な文章と適切な補注によって、スペイン(イベリア半島)におけるユダヤ人の2000年を追った好著です。ユダヤ教とキリスト教の違い、ユダヤ人のディアスポラ(ローマ帝国への反乱[ユダヤ戦争])からセファルディーム(イベリア系ユダヤ人)とアシュケナジーム(中東欧系ユダヤ人)の分離、イベリア半島におけるユダヤ人政策の変遷とその影響など、これ一冊でともかく概観出来てしまう。しかも本文94ページしかない。729円。

 もちろん「アラトリステ」とか「ヴィゴ」といった名前が出てくることは一切ありませんが、2巻の背景をより深く理解する上では貴重極まりない本です。

 色々と興味深い話もありましたよ。例えばイベリア半島におけるユダヤ人政策は弾圧と融和の繰り返しであり、融和の時代には有力なユダヤ人政治家や知識人が国家の中枢に関わっていたこととか、イサベルとフェルナンドがレコンキスタを完了した瞬間に反ユダヤ政策に転じた(それまではユダヤ人の勢力をレコンキスタに利用していた)背景には、国民国家形成の為に「わかりやすい敵」が必要だったこと。2巻でも触れられていましたが、スペインからユダヤ人やコンベルソを追放したことが、結果としてスペイン王国の衰退を促したこととか。

 これは3巻や4巻の内容とも繋がるのですが、スペインを追われたユダヤ人が一番多く集まったのがイスタンブルでありアムステルダムでした。イスタンブルのユダヤ人コミュニティからは有力な政治家が出て反スペイン政策を進めましたし、アムステルダムに集まったユダヤ人コミュニティは当然ながらオランダ独立を支援しつつ、環大西洋の交易活動の中枢を担った。スペインがセビージャでやろうとしていた新大陸交易の独占を突き崩す人材と資金がアムステルダムに集まっちゃったということです(この辺は4巻を読まれるとさらに笑えます)。

 「憐れなスペインよ。」

 ところでこの本にはもう一つ、面白い記述があります。12世紀から13世紀にトレドを中心として、イスラム世界の学術書が大量にラテン語訳され、後のルネサンスの種となった話は割と知られていますが、この時トレドに集まってアラビア語→ラテン語の翻訳活動を行っていた人々は、ユダヤ人やモサラベ(イスラム圏出身のキリスト教徒)の知識人でした。その彼らがやっていたのは、ロマンス語(ここでは中世ヨーロッパで話されたラテン語系の口語)を共通言語としたチーム翻訳だったのだそうです。

 つまり、アラビア語に強い翻訳家がアラビア語からロマンス語への翻訳を行い、さらにラテン語に強い翻訳家がロマンス語からラテン語への翻訳を行うという作業。なんだ、私らがやってるのと同じようなもんじゃないですか。私らもスペイン語、英語、日本語のトリリンガル体制で「アラトリステ」の翻訳してますからね。
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by waka_moana | 2007-03-05 09:04 | 文化

ブレダの難儀さ

 4巻が全部終わったんで、城砦建築に関する概説書などをのんびりと読んでおります。それで改めて判ったのですが、3巻の舞台となったブレダの町というのは、単なる城壁で囲まれた都市というものではない、かなり特殊な町だったんですね。

 つまりですよ。たしかにヨーロッパには中世以降、城壁で囲まれた都市は沢山ありました。3巻冒頭でカルタヘナ連隊が落としたアウドゥケルク市もその口でしょう。石積みの城壁。城門。場合によっては水濠。

 しかし、こうした造りの城というのは、大砲が発達するとあまり役に立たなくなる。石積みの城壁は砲弾が当たれば壊れちゃいますし、高い塔も大砲の良い的になるだけです。

 そこで15世紀以降、フランスを中心にして発達してきたのが砲戦に対応した複雑怪奇な城でした。この画像見てください。16世紀前半、だからブレダの戦いの100年前のブレダの地図。

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 城壁の各所には矢戦ではなく砲戦・銃撃戦を前提とした角張った稜堡が築かれています。これは死角をなるべく減らす為の形状だそうです。城壁そのものも石積みではなくて土塁。その方が砲弾の破壊エネルギーを吸収出来るのでこの時代には有利だったんですね。

 それから本来の城壁の突端の部分には、独立した堡塁が建設されてますね。5つあるかな。これが半月堡です。カルタヘナ連隊の正面にあった「墓場」の半月堡がどれかはわからんとですが。

 いかがですか。我らがドン・アンブロシオ将軍率いるカトリック軍は、この剣呑な要塞都市の周囲に塹壕を掘り巡らしてはモグラ戦を展開したというわけです。ご苦労さまです。
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by waka_moana | 2007-01-31 00:30 | 文化