「カピタン・アラトリステ」シリーズと映画「アラトリステ」の背景知識と翻訳裏話


by KATO Kosei Ph.D
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ブレダの難儀さ

 4巻が全部終わったんで、城砦建築に関する概説書などをのんびりと読んでおります。それで改めて判ったのですが、3巻の舞台となったブレダの町というのは、単なる城壁で囲まれた都市というものではない、かなり特殊な町だったんですね。

 つまりですよ。たしかにヨーロッパには中世以降、城壁で囲まれた都市は沢山ありました。3巻冒頭でカルタヘナ連隊が落としたアウドゥケルク市もその口でしょう。石積みの城壁。城門。場合によっては水濠。

 しかし、こうした造りの城というのは、大砲が発達するとあまり役に立たなくなる。石積みの城壁は砲弾が当たれば壊れちゃいますし、高い塔も大砲の良い的になるだけです。

 そこで15世紀以降、フランスを中心にして発達してきたのが砲戦に対応した複雑怪奇な城でした。この画像見てください。16世紀前半、だからブレダの戦いの100年前のブレダの地図。

c0075800_0213579.jpg


 城壁の各所には矢戦ではなく砲戦・銃撃戦を前提とした角張った稜堡が築かれています。これは死角をなるべく減らす為の形状だそうです。城壁そのものも石積みではなくて土塁。その方が砲弾の破壊エネルギーを吸収出来るのでこの時代には有利だったんですね。

 それから本来の城壁の突端の部分には、独立した堡塁が建設されてますね。5つあるかな。これが半月堡です。カルタヘナ連隊の正面にあった「墓場」の半月堡がどれかはわからんとですが。

 いかがですか。我らがドン・アンブロシオ将軍率いるカトリック軍は、この剣呑な要塞都市の周囲に塹壕を掘り巡らしてはモグラ戦を展開したというわけです。ご苦労さまです。
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by waka_moana | 2007-01-31 00:30 | 文化

4巻の裏筋の裏筋

 4巻はもうあとは詩の部分を終わらせちゃうだけになりました。3巻までの詩の部分が、翻訳としてイマイチだという指摘をいただいておりますので、なんとか御納得いただけるようなものに出来るよう、工夫しております。

 さて。4巻。表の筋は冒険大活劇です。愛と勇気。笑いと涙。恋と裏切り。儲かった人と損こいた人。全部出てきます。

 では裏筋はといえば、以前に書きました通りロジスティクス、物流のお話です。でもそれだけじゃない。もう一つ大きなテーマが仕込んであるような気がしました。それは何かと申しますと、「国民国家」の問題です。

 「国民国家」。英語ではnation stateと書きます。手元の社会学事典によれば「国家が民族的まとまりをもつ地域に即して建設されるとき、それを国民国家と呼ぶ」とあります・・・が、これはあまり良い表現じゃないですね。それはむしろ民族国家。民族と国家が一致している国家のこと。だってそうでしょう。アメリカ合衆国のどこに民族的まとまりをもつ地域があるのかと申し上げるしかない。むしろ、国家がある領域内に住んでいる人々を全て「国民」として統合している(あるいはしようとしている)時、そういった国を指して国民国家と呼ぶのだと思いますな。

 解りづらいですね。つまりこういうことです。ある国家がある。その国家は自分の領土内に住んでいる人間を基本的には自分の国の国民と認識して、そのように扱う。住民登録してパスポートを発行して税金を取る。そして、国民には「うちの国の人間として」の自覚を持ち、それに相応しい振る舞いをするように求める。

 軽いところでは「国民はこの国家を愛しなさい」と要求する。きついとこへ行くと「国民は国家の為に死になさい」と要求する。これってそんなに昔からあった話じゃないんです。だって細かく分割された領土が代替わりの度に「あんた誰?」みたいな遠くの偉い人に相続されたりするわけですから。以前に書きましたが、国家権力の頂点にいる王様がバーの雇われママというか、雇われ社長みたいなもんだった。もっと大事だったのはキリスト教徒であるかどうかとか、さらに遡ればローマ帝国の市民であるかどうかとか。

 要するに国というものがそんなに重いもんじゃなかったんですねえ。

 そのローマ帝国が壊れて、キリスト教もカトリックとプロテスタントに分裂してバトルロイヤルをやっていたのが隊長の時代です。ようやく国民国家的なものが生まれようとしている時代。

 で、隊長はどうだったかというと、ご存じのように国家にも王様にもキリスト教にもさほど拘っていなかった。ざけんじゃねえよ、くらい思っていた。にもかかわらず、1巻でも3巻でも反乱には加わろうとしなかった。その理由は何故だったのかということが、いよいよ4巻の最後でひっそりと語られます。

 詳しい話はネタバレになるので書けませんし、また別の解釈もあるとは思うのですが、個人的にはチャーチルが民主主義について語った有名な言葉を本歌にして、国民国家と封建制の違いを隊長とフェリペ4世の関係を例にとって語っている。そんな気がしました。
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by waka_moana | 2007-01-26 23:30 | 文化

淡々とやっております

 エピローグも明日で終わります。隊長の人生はいよいよもって難解なものとなって参りましたが・・・・・

 毎日病院に行っておりますのと、新しく「ホクレア号航海ブログ」の翻訳という任務が出来てしまったので、ここのブログに面白いネタを書く余暇がありませんが、4巻が終わったらきっと時間が出来る・・・・かな? いきなり5巻の原稿がドカスカ届いたりして。
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by waka_moana | 2007-01-23 23:30 | 翻訳作業
 4巻9章を昨日送稿しました。あとはエピローグと詩。

 朝からベビーベッドだの乳児用布団だの山のように届いてもう大変です。
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by waka_moana | 2007-01-19 12:02 | 翻訳作業

西宮でもありますので

念のため告知しておきます。西宮でもあるんです。

河野兵部おぢさんのスペイン流クラシック・ギター・コンサートin西宮

 1月28日 14:30 開場/15:00 開演
 白鷹禄水苑 宮水ホール
 前売り:2,500/当日:3,000円

 昨日だったか、朝イチでO内から「ポスターを作るからコピー原案を考えろ」という要請がありまして、何か適当に書いて送ったような記憶があります。4巻カバー見返し用あらすじとか腰巻き用あらすじも書かされました。

 ですから多分、アラトリステ販促ポスターを抱えたO内が会場内のどこかをウロウロしているんじゃないかと思います。
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by waka_moana | 2007-01-12 23:22 | ごあいさつ

しばらく

 家人が入院してしまいました。

 しかも4巻の追い込み。

 ということでしばらくウェブログの更新は出来ないような気がします。

 
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by waka_moana | 2007-01-12 20:04 | ごあいさつ
スペイン・マドリード在住でかとうの喧嘩友達、河野兵部さんの来日コンサートがあります。スペインに興味のある方、ギターの好きな方、ぜひいらしてください。ロビーでは、ワインサービ スもあります(^-^)

タイトル: Spanish Fantasy 河野兵部ギターコンサート
日時: 2007年2月5日(月)19:00開演
前売り 3500円 当日 4000円
場所: ルーテル市ヶ谷センターホール
東京都新宿区市谷砂土原町1-1
TEL: 03-3260-8621
http://www.the-lutheran.co.jp/
(市谷駅(JR・地下鉄有楽町線・南北線)より徒歩10分)

*詳細は下記をご覧ください
http://nsidea.com/fantasyweb.htm

曲目:
ファンタジア(L.バイス)/ソナタ ホ短調(D.スカルタティ)/ニ長調コンチェルト
(A.ビバルディ)/アレグロ-ラルゴ-アレグロ( 河野兵部編曲)/ブーレ(J.S.バッハ)/モーツアルトの「魔笛」の主題による変奏曲(F.ソル)/スペイン舞曲5番(E.グラナドス)/入り江のざわめき(I.アルベニス)/マラゲーニャ(I.アルベニス)/朱色の塔(I.アルベニス)/伝説(I.アルベニス)

*朗読表現「なみの会」河野司の朗読が入ります。

*ロビーでは、2005年の1月に急逝してしまった、スペインをこよなく愛したジャーナリスト、故・清水理惠さん(享年39歳)を偲んで、サラピパス・スペイン写真展「寝ても醒めてもエスパーニャ」を開催します。

お問い合せ・お申し込み(前売り券): TH企画
携帯:090-8309-2906 Fax:055-251-5463
E-mail:th@spafan.com
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by waka_moana | 2007-01-06 09:46 | 文化
 さすがに31日から3日までは中断させていただきましたが(年末年始もノンストップで作業していた人がいるらしい)、「アラトリステ」4巻、私のところの工程ではいよいよクライマックスにさしかかっています。全9章構成のうち8章がもう明日には仕上がる感じですね。

 さて。登場人物の顔見世と時代背景の説明だった1巻、宗教裁判と近世スペイン社会の関わりをテーマにした2巻、カトリックとプロテスタントの宗教戦争の内実を描いた3巻に続き、4巻が採り上げるのは、新大陸交易の問題です。

 ヌエバ・エスパーニャと呼ばれた中南米、そしてそこからさらに太平洋を越えてフィリピン、東アジア。これら広大な地域から運ばれた財貨がカリブ海で集積され、巨大輸送船団となってアンダルシアに到着する。そこから更に財貨はヨーロッパ各地に散っていく。4巻ではこの壮大なるモノの流れの仕組み、その裏にあったカネの流れを、例によって末端で生きる人々の現実から遡って精密に描き出しています。

 我らが隊長がそこにどう絡むのかは、これはもう読んでからのお楽しみ。北ヨーロッパの重苦しい天候を反映していたような3巻のトーンとは打ってかわって、スコーンと抜けるようなアンダルシアの青空の下、面白くて、やがて哀しき無頼たちの群像劇が展開されます。

 ところで、こうした「モノの流れ」の問題、実はそのまま現代的なテーマでもあります。ビジネス用語では「ロジスティクス」と言うのですが、例えばある企業が何かの製品を作って売って商売するという時に、その原材料の調達から商品の出荷、そして消費者の手元に届くまで、これ全てロジスティクスなのですよ。私の知り合いでまさにこのロジスティクスのプロ(DHLの偉い人)がいらっしゃって、本も書いているので、機会があったら読んでみていただきたいのですが。

拓海広志『ビジュアルでわかる船と海運のはなし』(成山堂書店、2006)

 ですから「アラトリステ」4巻はロジスティクスのお話と言えるわけです。まだイメージが沸きづらいですかね。例えばですよ。昨年大ヒットした例の映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」。あのシリーズはロジスティクスが無ければ成立しない。要するに海賊というのはロジスティクスのプロセスの中にある物資財貨を略奪するのが商売ですからね。大航海時代というやつも、旧来のロジスティクスの構造(中近東ルートでの東洋との貿易)を代替するような新しいルートの開拓のことでした。

 言ってみれば大航海時代のスペイン王家というのは、現代でいうシーランドやマトソンのような巨大海運業者だったのであり、本業での儲けを赤字子会社の運営に全部突っ込んで自転車操業しているようなアンポンタンな企業だったと。そういうことが4巻を読めばよ~くわかるのです。
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by waka_moana | 2007-01-05 00:04 | 翻訳作業

伏線多いよな

 最初に私が野谷文昭先生に「アラトリステ」の翻訳をやりましたよとお話したとき、野谷先生はおっしゃいました。「レベルテは若干緻密さに欠ける気もするけれど、スペイン語文学としては面白いところを発掘したね。」
 
 という野谷先生の評だったのですが、実際にやってみると結構このオヤジ、細かい芸を色々使ってくるので油断なりません。結局3巻では註の挿入が見送られた謎のイタリア人マッツァリーノとかフリオ・セサルもそうですが、もっともっと細かいところで小癪なくすぐりを入れてくるのがレベルテの旦那です。

 その好例があれですね。マドリッドの憎めない地回りヤクザ、バルトロ・カガフエゴ。1巻冒頭でさりげなく名前が出ていたのですが、それっきりのキャラかと思ったら2巻でまた登場して美味しいところを持っていく。さらにもっと先でも加賀やんはアリアを披露するチャンスがあるんですが、その時のアリアの直前で隊長と交わす会話がちゃんと2巻の会話を受けていたりする。

 まあ、ここまではなんとか普通に気がつけるんですけどね。もっともっとマイナーなネタも仕込んであるから怖い。例えばケベ爺が毎度毎度大量に並べる悪態に紛れ込んでいるちょっとしたエピソードが、別の巻の別の町での事件に(注意深く見ると)繋がっていたりします。実はこれ、私も危うく見落とすとこでした。

 「アラトリステ」、意外なことに伏線落としの恐怖と隣り合わせの本です。単訳だったら胃が痛くなりそうなくらいに。
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by waka_moana | 2007-01-01 00:38 | 翻訳作業